映像画日記

アニメーターの絵と映画と読書の記録

アイドルとそのPV

          

2012年の春、洋泉社から「洋泉社MOOK映画秘宝ex 激動! 」が発売された。

このムックは2002年から2011年までのアイドル史を、総まくりするという企画誌であった。

映画秘宝EX激動!アイドル10年史 (洋泉社MOOK)

映画秘宝EX激動!アイドル10年史 (洋泉社MOOK)


俗に言う「アイドル戦国時代」の名のとおり、この10年で日本のアイドルグループは一気にその数を増やし、今まさに芸能界は、群雄割拠の熾烈な戦場と化している。

日本の芸能史はそのままアイドルの歴史である。
日本のアイドルは戦前からグループで売り出す傾向にあったらしく、三人ひと括りが主流だった。

戦後の美空ひばり、江里チエミ(高倉健の元奥さん)、雪村いづみにはじまり、スパーク三人娘(中尾ミエ、伊藤ゆかり、園まり)や東宝スリー・ペット(星由里子浜美枝、田村奈巳)、さらに東芝三人娘(黛ジュン小川知子奥村チヨ)など、60年代だけでも多くのグループが誕生していた。
70年代の「花の中三トリオ」や、80年代の「角川三人娘」など、現代のグループアイドルに繋がる系譜を見ることができる。

70年代にはカラーテレビの全国普及にともない、「キャンディーズ」、「ピンク・レディー」がお茶の間で大ブーム。カメラの前で歌い、踊るという現代のグループアイドルに近い形のユニットの登場だった。



80年代に入ると、歌と踊りのみのアイドルは成立しづらくなり(女優兼歌手のブーム)、80年代後半よりアイドルの人気は少しずつ停滞していき、冬の時代が始まる。
一方この頃MTVの登場によって、現代のアイドルPVに近い形の映像作品が登場するようになる。
とは言うものの、当時のPVは、マドンナやマイケル・ジャクソンなど米国のアーティスト達が積極的に映像技術を模索していくなか、日本のアイドルのPV作品は白バックを背景にしただけの単純なものが主だった。











女優やグラビアアイドルが主役となっていた90年代、広末涼子や「東京パフォーマンスドール」、「SPEED」などが登場。そしてASAYANの番組企画から「モーニング娘。」がデビュー。
PVはライティングや色使いが派手になり、3DCGが画面の中に利用されはじめるが、基本的な画作りにはあまり変化がなかった。




ここで一人のアーティストの登場により、日本のアイドルPVが大きく広がりを見せることになる。



森高千里の登場である。




森高千里は70年代にデビューし、同年代の10代に発信しファンがリアルタイムで成長を追うという意味で 現代のアイドルのフォーマットの基盤となった南沙織の「17才」をリメイク。これがキッカケで歌手としてブレイクする。
個性的な楽曲を自ら作詞作曲し、話題となるが、そのPVも革新的なものであった。

93年に発表した18枚目のシングル「ハエ男」では、楽曲がはじまるまでに4分以上に及ぶストーリーが展開。79年のハリウッド映画、「エイリアン」に酷使したハエ男に森高が追われるというSF劇が挿入された。
もともと森高は87年の映画、「あいつに恋して」のヒロイン役として芸能界デビュー。その後、徐々に歌手業に転向していくが、役者としての経験が、従来のアイドルPVの歌、踊りのみを魅せる、というPVの構成と異なる、「映像作品」としてPVの方向を打ち出す力になったと考える。
当時としては比較的珍しく、発表されたPVのほとんどがレーザーディスクとビデオで発売されたことからも、その注目度が窺える。






このPV内での「演技」の構成を大きく継承した形として、05年にデビューした「AKB48」があげられる。
Quick Japan vol 87 永久保存版大特集 AKB48 全100ページ」のなかに、PV監督の高橋栄樹氏の貴重なインタビューが掲載されている。


それによると、


「PVっていうのはファンタジックなものが求められているし、そもそも出演者はミュージシャン本人なことが多いんで役者じゃないし、演技的にはそんなに追い込めない。(中略)
ツルっと一枚のファッション写真のようにPVを作っちゃうと、PVとしては全然OKなんだけど、観てる人にとって想像する余地が少なくなる。でも映像性のある物語なら、「なんでこの人はこうしているんだろう?」って想像が膨らむと思う。幸いにもAKBは役者になりたいって子も多かったので演技指導ができたのは嬉しかったです」



とある。
AKB48のPVには2011年の「上からマリコ」や「マジジョテッペンブルース」のように10分近いPVも少なくない。いずれも本人達のTVドラマやコンサートなどのタイアップもしくは派生企画など、平成のアイドルにふさわしいメディアミックスによって様々なPVが撮影されている。






AKB48モーニング娘。と入れ替わるかのように台頭しだした06年には、映像プロモーションのあり方そのものが大きく変わりはじめていた。
Youtubeニコニコ動画をはじめとする各種動画サイトが活発化し、個人ユーザーが映像を編集し投稿。70年代までさかのぼって過去のアイドルの動画を容易に観賞できるようになる。
個人がMAD動画として過去のPVを再編集するなかで、様々な作品があらためて評価される。さらに投稿動画サイトが一部のネットユーザーだけでなく一般の認知度もあがるにつれ、各種音楽レーベルが主体的に動画を配信するようになる。プロモーション活動の場がTVから徐々にネットに広がり、現在ではアイドルの新作PVをTVより先にyoutubeで視聴する時代となった。

さらにU-STREAMなどのネットLIVE配信の普及により、アイドル自身が自ら映像をプロモーションすることすら可能になった。「ももいろクローバー(Z)」はU-STREAMを積極的に利用し、ネットでリアルタイムでLIVE映像を配信しネットユーザーの心を掴んでいく。楽屋裏のアイドルの素顔や、レッスン風景など、昭和のアイドル(偶像)とは真逆のアプローチで より身近な存在としてのアイドルのあり方を提示した。






またTVに頼らないプロモーションとして、地方アイドル(通称ロコドル)の躍進も見逃せない。新潟の「neggico」、広島の「サンフラワー」、山形の「SHIP」、青森の「りんご娘」、埼玉の「Pinkish」、千葉の「C−ZONE」、栃木の「とちおとめ25」など、この通り列挙したらきりがないほど。彼女達は地方に在住しながらネットを利用し、全国のファンを獲得することに成功している。







このようにネットプロモーションの普及が、アイドル戦国時代の戦乱をさらに混迷させていくのである。


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